円七面鳥

不定期

『アンディファインドマーダーズ』の枯れ尾花

「鵺的天鼠」を投稿しました。

 

 

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せっかくだし『アンディファインドマーダーズ』全体についても含めて振り返っておこうと思います。自作語りは未来の自分の助けになったりする。

ネタバレ有りです。ネタバレして語った方が楽しいタイプの本。

 

 

コンセプトの話。

もともとの出発点は「収録作すべてに叙述トリックが仕込まれた短編集」だったはず。一般に、叙述トリックは事前に「この作品には叙述トリックが仕掛けられている」と示すことがネタバレとされる。叙述トリックは基本的にふいうちを狙うものなので読者に身構えられていると厳しい。だから「収録作すべてに叙述トリックが仕込まれている短編集」をやろうとするなら何らかの回避策を講じる必要があるのだけど、この本を作り始めたときはそんなこと考えていなかった。収録作でいうと「バナナ(略)」だけ書きあがっていて、こいしちゃんと鵺のトリックの肝を思いついていただけの状態。人形とラテラルはまったくの白紙。たぶん「収録作すべてに叙述トリックが仕込まれた短編集を作れたらきっとたのしい」くらいの気持ちしかなかった。

そういうわけで意識的に回避策を講じることはなかったけれど、結果的にはそれに近い感じになっているというか、そもそも叙述トリックというには怪しい話もいくつか含まれている。騙し方、認識の誘導の仕方も短編ごとにわりと違いがあったので、ちょっとぐらいなら疑われても大丈夫そうな感じになった。ので、宣伝の段階から「あなたを騙すミステリ短編集」なるコピーをつけた。でもたしか、自分から「叙述トリック」モノとして告知したことは一度もないと思う。

頒布の1,2か月前に似鳥鶏叙述トリック短編集』が出たけど、コンセプト被りの焦りはあまりなかった。考えてみるとあちらもとくに回避策講じてないから真相を見抜きやすい短編が多い気がする。「愚直に全編に叙述トリック仕込みました!」という愉しさはあちらが上。

 

 

収録作のトリックについて。

どの作品かは念のため伏せますが、要は詠坂雄二のアレと麻耶雄嵩のアレです。後者は直接ではないけど前者はほとんどそのまま。*1

 

 

「彼女の思い出」

叙述トリックというか、落語のサゲ、考えオチ。見たままなので解説することもない。アラツキさんの挿絵と段組みが9割。こいしちゃんならこういう勘違いをしそう、というのは、みりの(100円外務省)さんの「こいショタ」を読んだあとで思いついた記憶があります。

 

 

「バナナ(略)」

作中作:三人称と見せかけて一人称(視点人物以外の内心描写あり)

外枠:視点人物の誤認(真の視点人物は他の登場人物から認識されていない)

 

・アッパー系。外枠のトリックほんとに雑だな~と読み返すたびに思う。叙述トリックのための叙述トリック、騙すだけの騙しが許されるタイプの作品。許されているはず。

 

 

「自律人形の夜」

人物の属性:自立人形と見せかけて、人体を人形のパーツに換装中の人間

 

ダウナー系。叙述トリックじゃないと思うけど、叙述トリックとみるならこういう騙しが行われていた、となる気がする。私がこれを叙述トリックじゃないと感じるのは、「エミーを人形と見せかける描写」を意識的にはなにもしていないから。冒頭で「三人称と見せかけて一人称」をやったのは、前話を受けてトリックの実例を示しつつ、これも油断ならない話だぞと思わせるためだったはず。

この短編はトリックが云々というよりアリスが魔女なことが大事。でもどうだろう、私が作中で描いたアリスはだれかを奪うほどに魅力的だったろうか。

 

 

「ラテラル:ある親子の話」

作中作(作中問題)を用いた逆叙述の解説:作中作のある登場人物らに血縁関係があることを、外枠の登場人物は知っているが、作中作の登場人物は知らない(および「作中作の登場人物が血縁関係の事実を知らないこと」を外枠の登場人物は知らない)

 

アッパー系。トリック解説が長い。逆叙述の狙いをちゃんと文章におこすとこうなる。収録作の中では最後にトリックを思いついた話なんですが、結果的に逆叙述トリックの事前解説みたくなったのが面白いなと思います。書いたことなかったっけ? 収録作を頭から並べると「明らかに何かがおかしい→犯人当てのルールと叙述トリックについての簡単な解説と実例→叙述トリックを用いた(風の)物語の実例→逆叙述トリックの解説→総決算→こいしちゃん」という構成になっていますが、「鵺的天鼠」をメインにすえたこの構成はわりと偶然の産物です。

 

 

「鵺的天鼠」

この作品について解説すると鵺が正体不明でなくなってしまって、それはなんとなく避けたいなと思ってこれまで深く言及してこなかったしこういうエントリ書いてる今でさえ悩んでいるのですが、えっここで書かなかったらそれこそこの記事の意味なくない……?

妥協点として解答すれすれのヒントを残しておきますが、神様(三人称の地の文)は間違えないしウソをつきませんので、そこで名前の出てきたひとはたしかにそこにいます。一方で人や妖怪は間違えるものですから、そこにいるひとを別の誰かと勘違いしてしまうこともあるでしょう。それを踏まえて問題の時刻のアリバイを考えてもらえば何が起きていたのか分かるはずです。

 

『アンディファインドマーダーズ』がこのような構成をとったのは偶然の産物ではありますが、偶然なりに活かしたいというか、読んだ人が「鵺的天鼠」の真相に過たず届いて欲しいという気持ちは強くありました。ですから、この作品を単体で投稿することにはちょっと迷いもあったのですが、まあたぶんみんな気付いてくれるだろうと楽観することにしました。ことにしたというか、実際に気持ちが楽観に傾きました。信じています。

タイトルはもちろん「鵺的スネークショー」から。表紙を想起させるラスト一行がとてもとても気に入っている。

 

 

・実は『アンディファインドマーダーズ』について語るのは2回目

 

mikamae.hatenablog.jp

なんなら初頒布のひと月後に「あとがきのあとがき」を書いているので3回目。

 

 

・まだ在庫はあるし販売中

 

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booth.pm

 

イベント参加することがあれば持ってくと思います。イベント参加予定も新刊を作る予定もありませんが。でも新刊なくてもそのうちイベントは出ると思います。『ディアデッドリーディストーション』もあるし。

 

 

・軛が祝福された話

 

ざっくり説明すると、「叙述トリックをテーマにして、いまの私はここまで物語を紡げるようになった」ということをとある人に伝えたくて、数年ぶりに連絡をとって本を送り付けて感想をいただいた、というだけです。ボトルメールのつもりだったのに我慢できずに直接投げつけました。その人に背負わされた軛はこれからも背負うことになると思いますが、それは決して呪いではないのです。

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*1:パクリかと言われたら、確信をもって違うと認識していると答えます