榊林銘『あと十五秒で死ぬ』についてのメモ
榊林銘『あと十五秒で死ぬ』を読みましたのメモ。外部記憶装置。感想のつもりで書いた文章ではない。
以下の文章は『十六夜咲夜の死の研究』収録作のネタバレを含みます。
『十六夜咲夜の死の研究』収録作の、ネタバレを、含みます。
未読の人はぜひ読んでください。まだboothで販売中みたいなので。*1
東方の知識が紅魔郷~輝針城あたりまでひとさらいあれば支障なく読めると思います。*2
タイトル
・タイトルを目にして「あの設定を15秒でやんの!?」と驚いたのは私だけではないはず*3
「十五秒」
・十五秒の引き伸ばし
・極限のタイムリミットの頭脳戦……とはやっぱり思えなくて、というのは状況を知りえない殺人犯は思考が後手に回らざるをえないから。だからこそ二発目が完全な不意打ちなのだけど。そもそも対決・頭脳戦感は意図されていたのか?
・十五秒という制約の中でよくもまあこんなに次々と策を……となる短編ですが、そんな中でも感電死は飛び抜けてますよね。同じ設定を思いついても感電死級の発想を組み込める人はそうそういないでしょう。というかなんでこの設定で感電死を狙えるの……?
・雑誌掲載時に読んでいて、私が銘宮さんを知ったのは「毒入りスカーレット事件」が出たころなんで、一番初めに読んだ銘宮(榊林銘)作品ってこれなんですよね。時空が歪んでいる気分になる。*4
「このあと衝撃の結末が」
・吹っ飛んだ十五秒
・あらすじ知った瞬間に「星輦船パズル!!!」と驚いたのは私だけではないはず(これはいそう)
・でもまああの力業パズラーを現実世界で再現するのは難しいよな、ちょっと目を離した隙の急激な死という不可解な謎に対しての解答を私たちの現実のリアリティライン上にうまく乗せてきたなぁ……とか思ってたら! 「星輦船パズル」における犯人の行動が、こんなにもアクロバティックに成立しうるのか!? とめちゃくちゃ驚きました。
・「首が取れても~」は発想のひとつひとつは思いつけるのでそれをひとつずつ地道に盛り込んでいけば(あのテンションの再現はともかく)どうにか手が届くかもしれない……と思えるんですが、この短編は奇手に奇手を重ねて奇手でトドメを刺す連打をきちんと推理と伏線で接続していて、そのネジの外し方とこれを成立させる状況設定を考える途方もない労力を想像すると「あ、これは書けない。無理。降伏です」ってなる。
・推理力極振りJKアヤちゃん*5
「不眠症」
・ループする死の運命
・「十六夜咲夜の死の研究」とかなり近しいものを感じた。状況の絵解きとしては「十六夜咲夜の死の研究」の方が鮮やかで、それと比べるとこちらはやや落ちるかな……というのが初読時の正直な感想。でも時間をおいてふいにこの作品について考えるとき、とくに登場人物たちの心情に思いをはせるときにきゅっと締め付けられる胸があって、だからまあ良い作品なんだと思います。良い作品です。
・情緒に振り切ったやるせない幕切れは銘宮作品の特徴のひとつ。
・一冊通して最も印象に残っているセリフ、「親切っていうものは、そういう性質のものでしょう?」
「首が取れても死なない僕らの首無殺人事件」
・奇想タイムリミットサスペンス
・こういう特殊設定ミステリが読みたいんです私は!!! 読みたかったものです、ありがとうございました。
・特殊設定を利用したトリックや数々の発想、それ自体は実はさほどぶっ飛んでいなくて、そういう設定ならこういうことが出来そうだ、の範疇ではあるんですね。ただこの作品はこちらが思いつく「こういうことができそうだ」を余さず盛り込んでくれたし、その組み込み方もべらぼうにうまい。首脱を利用したトリックはぼんやりと思いついても、それが事件のどこに関わるのか、そもそも関わらないのかはきちんと考えないと分からない。だから事件が論理的に解体されていく過程で「ここでその絵面が出てくるのか!」という驚きを何度も味わえました。
首を180度回しても大丈夫、というくだりなんかは「ああ、この映像のこいつは首が逆向きなんだろうな。でも、それが事件にどう関わるんだ?」となる手がかりの見せつけ。クイーン流。
・「どんな真実が明かされても、お前が俺の息子であることに変わりはない」本書随一の爆笑ポイント。
*1:https://kazakiribane.booth.pm/items/965698
*2:東方未履修者からするとけっこうなハードルでは? そうかも
*3:あの設定:https://www.pixiv.net/artworks/60541557
*4:ところでずっと気になっているんですが、猫はお燐で、被害者は薬屋で、加害者は……幻想郷で? これを? どうやって……?
*5:たぶん同一人物:https://www.pixiv.net/artworks/83912308 『高校生推理』は未読です