円七面鳥

不定期

文体練習

文体練習、倒叙、シンデレラ。「淀みなく書けそう」と思ったから書いてみたけど90分かかった。積もう、経験。

 

 

 靴を履いたために彼女は結婚することになった。
 ウミガメのスープの問題文? いいや違う、これは物語の結末だ。
 彼女の結婚相手というのはとあるお国の王子様だった。彼女が靴を履いたとき、探していた人が見つかったことに王子様はたいそう喜んだ。彼女が履くまでその靴は、彼女の二人の姉も含め、誰の足にも合うことがなかった。王子さまはその靴を手に国中をめぐり、靴がぴったり合う女性を探していたのだ。というのもその靴――ガラスで出来た靴が、王子様が見初めた相手が残していった唯一の手掛かりだったからである。
 それは王子様の住むお城で舞踏会が開かれた夜のこと。零時の鐘が鳴り響いたと思ったら、それまで王子様と楽しくダンスをしていた彼女は慌ててお城を去っていった。名前を尋ねる間もなく、階段にガラスの靴の片方だけ残して。その舞踏会は王子様の婚約者を見つけるためのもので、他の参加者に遅れるようにやって来た彼女に、王子さまは一目ぼれしてしまったというのに!
 もちろん彼女にも事情があった。綺麗なドレスに身を包み、立派な馬車でお城に向かった彼女。それらは日付が変わったら魔法が解けて元の姿に戻ってしまうというのだ。ハツカネズミ、カボチャ、それに元のみすぼらしい服……。彼女が舞踏会に行く準備を整えてくれたのは魔女だった。魔女は、彼女がいつもつらい仕事をがんばっていることを知っていたから、そのごほうびとして彼女を手伝ってあげたのだ。
 彼女は舞踏会に行きたかった。二人の姉も参加する舞踏会に。
 彼女は姉たちと継母につらい仕事を押し付けられ、着るものはボロで、お風呂にもほとんど入れてもらえず、頭にはいつもかまどの灰が付いていて、三人からは「シンデレラ」なんて悪口みたいな呼ばれ方をしていた。彼女は二人の姉なんかよりとても美しくて、三人はそれが許せなかったのだ。
 継母はお父さんの再婚相手だった。最初のお母さんは早くに亡くなっていた。
 むかしむかしの、美しくて優しい娘の話である。